逆子の読み方・呼び方とは?

「逆子」の読み方は「さかご」ですが、「逆児」と表記することもあります。
お腹の中の赤ちゃんの姿勢・向きである「胎位が一般的でないもの」をいいます。
つまり、胎児の「異常胎位」のことです。

妊娠中期までは、赤ちゃんはお腹の中をくるくる回っているので、検診の時に、逆子であることもあります。
しかし、妊娠後期になり、赤ちゃんの成長に伴って、一番大きい頭が重力の関係で下を向くようになり、赤ちゃんは妊婦さんのお腹の中で頭を下にし、丸まった姿勢をするのが一般的です。
何らかの原因によって、一部の赤ちゃんは、頭を上にするなど、通常とは異なる姿勢をしていることがあり、出産時、足や手、お尻から生まれてきてしまうことを言います。

逆子そのもの自体は、赤ちゃんの成長を妨げるなどするものではないので、特に大きな問題はないのですが、出産時まで逆子であると、難産になったり、手足がひっかかる、最悪の場合には、赤ちゃんの死亡につながるというリスクがあるので、問題があるのです。

 

逆子の種類と呼び方とは?

逆子の呼び方には、赤ちゃんの向きによって、種類や、呼び方が異なります。
妊婦さんの体の縦軸と、赤ちゃんの体の縦軸が一致している時、
①赤ちゃんの頭が下で、骨盤が上にあるものを、頭位(とうい)
②赤ちゃんの頭が上で、骨盤が下にあるものを、骨盤位(こつばんい)。 
と言います。

つまり、正常な姿勢でない逆子は、正常な頭位ではない、ということで、大きなくくりで言えば、逆子は骨盤位だと言えます。

しかし、骨盤位は、赤ちゃんの一番下に位置する部位によって、
足位(そくい):お腹の中で、立っているような姿勢になっているもの。 
膝位(しつい):お腹の中で、膝立ちしているような姿勢になっているもの。
臀位(でんい):お腹の中で、お尻が一番下に位置しているもの。
に分類することができます。
ですから、これらは全て、逆子の種類となります。

さらに...
①足位でも、
・両足下で、立っているような姿勢のものを、全足位(ぜんそくい)
・片方の足下で、片足立ちのような姿勢になっているものを、不全足位(ふぜんそくい)

②膝位でも、
・両膝がが下で、膝立ちをしているような姿勢のものを、全膝位(ぜんしつい)
・片方の膝だけが下で、片膝立ちのような姿勢になっているものを、不全膝位(ふぜんしつい)

③臀位でも、
・お尻が下、両足が上になって、体がV字状になっている姿勢のものを、単臀位(たんでんい)
・お尻と足が下で、体育館座りのような姿勢になっているものを、全複臀位(ぜんふくでんい)
・片足だけ足が上になって、片足だけ足が下になった姿勢をしているものを、不全臀位(ふぜんでんい)
と呼び方が変わります。

逆子の歴史

上述のように、今ではごく普通のように逆子という現象は認識され、医学的にも細かく分類されるようになっている逆子ですが、ここで、逆子の歴史について、触れていきたいと思います。

「逆子の灸」と言われる逆子に対する灸法があります。
お灸という歴史がある療法であることから、古来から伝わり、行われてきた治療法の1つなんだろう。
そういった治療法があるくらいだから、「逆子」そのものの認識も、昔からあったのだろう、と思いがちです。
お灸を業とする鍼灸師ですら、多くの者が「逆子の灸」は、古来より伝わる療法だと考え、疑う者はいないと思います。
私自身、つい先日まで、そう思っていました...。

しかし、「逆子」という現象が確認され、発表されたのは、1700年後半のことでした。
江戸時代の医師 賀川玄悦は、1700年代の半ばに、正常な胎児の姿勢を発見したのです。
それ以前は、赤ちゃんは頭を上にしていて、陣痛が始まると頭を下に向きを変え、頭から生まれてくると考えられていたようです。
賀川玄悦は、自身の臨床経験から、妊娠中期から、赤ちゃんの姿勢は、上にお尻、下に頭という「上臀下首」という姿勢であると考えたのです。
ちなみに、ちょうど同時期に、イギリスの産科医ウィリアム・スメリーも、同じことを発表しました。
それ以来、正常な赤ちゃんの姿勢に対して、そうではない姿勢=逆子という認識が、できていったのです。

考えてみれば、昔は、お腹の中の赤ちゃんの状態を、どうやって知ったのでしょうか。
妊婦さん自身は、胎動の感じから、また、経験豊富なお産婆さんは、お腹の皮膚の上から触った感触で、赤ちゃんの姿勢が分かったのかもしれません。
でも、お腹の中を透かして見ることができないわけですから、正しく把握できたわけではないと思います。

きっと、「何だかよく分からないけど、赤ちゃんは頭から生まれてくるのが一般的で、まれに、足や手から出てくる赤ちゃんもいる。」といった程度の認識だったのではないかと思われます。
出産の時に、頭が出るか、手が出るか、足が出るか、その場の状況次第だったのだと思います。

逆子を直すためのツボ

2~3世紀ごろに書かれた書物の中に、「難産の時に足にお灸や鍼をする」という記載があります。
赤ちゃんが、

  • 足から生まれてくることを「逆産」
  • 手から生まれてくることを「横産」

と記載されており、なんと! ツボを鍼や灸で刺激して、いったん出てきた手足を引っ込めさせて、胎位を直し、何とか頭から出産させようとするものです。
これが、後世、まわりまわって、めぐりめぐって、「逆子には灸をすると良い」→「逆子の灸」となったようです。

「逆子の灸」として有名なツボには、「至陰(しいん)」と「三陰交(さんいんこう)」というツボがありますが、これらが古い中国の書物にズバリと記載されていたわけではありません。
5~6世紀ごろの書物にようやく記載が出てきますが、他のツボもたくさん記載されており、2つのツボにしぼられていたわけではありません。

逆子の灸のツボ① ~至陰(しいん)~

10世紀ごろの書物に、「横産」の時、「婦人の右脚小指尖頭に灸す」という記載があります。
足の小指の指先には、正しい位置としては、小指の外側で、爪の根元から2~3ミリ手前のところ、という位置ですが、至陰というツボがあります。
書物に書かれていたことと、このツボと結びついて、横産のように、赤ちゃんの手足が先に出てくるような「逆子」に、「至陰」というツボが使われるようになったのではないかと思われます。

中国書物に書かれていたことから、どちらかというと、中国式の逆子の灸では「至陰」が使われるように思われます。

逆子の灸のツボ② ~三陰交(さんいんこう)~

また、「三陰交」に関しては、禁鍼禁灸穴といって、特に妊婦に使うと堕胎や流産する作用があると言われ、妊婦には禁忌と考えられていました。
吉原の女郎が妊娠してしまった時、三陰交に鍼や灸をして堕胎した、などという逸話を聞いたことがあるような、ないような...
そんな都市伝説が変に広く伝わってしまい、妊婦さんや、不妊治療中の女性に、ツボ治療はコワイという印象を植え付けてしまっているように思われます。

学生時代から東洋医学の勉強をしていた日本人の産婦人科医 石野信安氏は、健康な妊婦で逆子になっている人に対して、三陰交への施灸を行ってみる、という臨床実験を行いました。
医師として、妊娠や分娩の経過、胎位の関係を観察していったところ、

  1. 古来、妊娠中にタブーと考えられていた三陰交への施灸を行っても、何ら副作用を認めない。
  2. 三陰交の施灸は、逆子に対し試すべき方法である。
  3. 胎児の自己回転の研究にあたって、三陰交はみのがすことの出来ないツボである。

という結論につながり、世界で初めて「三陰交の施灸は、逆子の自己回転を起し、正常位を取り易くさせる」ということを発表したのです! 戦後の1950年のことでした。
この石野先生の発表を機に、世界中で「逆子には三陰交の施灸」が行われ、また、さまざまな追試が行われるようになったのです。

この三陰交への施灸に関して、石野先生の発表には続があり、逆子改善の効果的だけでなく、次のような妊娠分娩に良好な影響を及ぼすことも発表されています。

  • 妊娠中下肢の倦怠感や浮腫の消失
  • 分娩時の陣痛の疼痛緩和
  • 出血量の減少
  • 分娩所要時間の短縮  といった、

いわゆる「安産」につながる効果があることが確認されています。

石野先生が発表されたことから、日本式の逆子の灸では「三陰交」が使われるように思われます。

逆子の灸

「至陰」や「三陰交」にしても、その他のツボにしても、お腹ではなく、お腹からはなれた場所を刺激して、逆子を直していく方法を行います。
足とお腹が同じ神経支配だから、そのネットワークを介して、効果がでるのではないかという説もありますが、東洋医学の神秘の一つですね。

治る?直る?

最後に、逆子は異常胎位ですが、積極的な治療を必要とする病気ではありません。
ですから、逆子が改善し、本来の姿勢になることは、「治る」ではなく、「直る」という字を用いる方が良いのではないかと思っています。

妊娠後期に入る28週まで様子を見ても良いと思いますが、28週を過ぎたら、逆子を積極的に直していく方法を何かしら行った方が良いのではないかと思います。
逆子の種類、そして、子宮環境などによっては、何をやっても直らないこともありますが、妊婦さんとして、万全を期して出産へ臨んでいただければと思います。