妊娠33~34週頃の妊婦検診で、赤ちゃんが逆子(骨盤位)であると、医師から帝王切開による計画出産が告げられてしまいます。
医師からの告げられた一言によって、妊娠以来バラ色だったマタニティライフが、音を立ててくずれ、頭の中が真っ白になった、というお話を聞いたことがありますが、とても驚かれる妊婦さんが多いようです。
このページでは、逆子で選択される帝王切開とはそもそもどういうものか、どういう妊婦さんが対象となるのか等、帝王切開について解説します。
いざという時に必要以上の心配をしにいように情報収集にお役立てください。
帝王切開とは
帝王切開とは、妊婦さんか赤ちゃんのどちらかの状態に問題が生じ、経腟分娩が難しいと判断された場合に選択される出産方法です。
妊婦さんのお腹と子宮を切開して直接赤ちゃんを取り出します。
帝王切開は、妊娠経過において経腟分娩が難しいと判断した場合に計画的に行う「予定帝王切開」、早産の時期や経腟分娩中に母体や胎児にリスクが生じた場合に緊急で行う「緊急帝王切開」に分かれます。
帝王切開についての統計データ
厚生労働省のデータ(平成26年の統計データ)によると、帝王切開による分娩数は、
- 一般病院の分娩・・・46,451件中 11,543件(24.8%)
- 一般診療所の分娩・・・38,765件中 5,254件(13.6%)
合わせて 85,216件中 16,797件(19.7%)が帝王切開での分娩ということになります。
つまり約5人に1人が帝王切開により出産していることになります。出産自体が減少しているにもかかわらず、帝王切開による出産は過去20年間で約2倍に増えています。
増加の理由として妊婦さんと赤ちゃんの安全をより重視することになった事や、医療の進歩によって安全な帝王切開が可能になったことが上げられます。
20年前では、経膣分娩を選択していたような状態であっても、リスクを避けるために帝王切開を行うケースも増えているようです。
近年では高齢出産や、体外受精などハイリスク妊娠の増加や、分娩時のトラブルにまつわる訴訟の問題の増加なども関係していると思われます。
予定帝王切開の主な理由
帝王切開を選択した出産となる主な原因は、以下となります。
逆子
赤ちゃんのお尻や足が下にきている場合をいいます。
赤ちゃんの姿勢や、ママの骨盤の大きさなどによって、経膣分娩が難しい場合に帝王切開になることがあります。
前置胎盤
胎盤が部分的、もしくは完全に子宮口をふさいでいる場合は、経膣分娩だと赤ちゃんが産道を通れない上に、赤ちゃんより先に胎盤がはがれる危険性もあるので、帝王切開での出産になります。
多胎妊娠
双子なら赤ちゃんの位置によっては経膣分娩が可能な場合もありますが、トラブルの危険性もあるので帝王切開を選ぶこともあります。
3つ子以上の場合は、母体の安全のために、ほぼ帝王切開になるようです。
児頭骨盤不適合
ママの骨盤の大きさより赤ちゃんの頭が大きかったり、骨盤の形が変形しているなど、赤ちゃんが骨盤を通り抜けることができない場合に選択されます。
妊娠高血圧症候群
症状が重いと胎盤の機能が低下するので、十分な酸素が赤ちゃんへいかず悪影響がおきることがあります。
赤ちゃんの発達が悪かったり、分娩前に胎盤がはがれ落ちる危険性がある場合などは早めに帝王切開をすることがあります。
緊急帝王切開の主な理由
緊急帝王切開となるものには、次のようなケースがあります。
胎児機能不全
妊娠中あるいは分娩中に赤ちゃんの状態に問題がある、あるいは将来問題が生じるかもしれないと判断された場合をいいます。
臍帯下垂、臍帯脱出
胎盤から赤ちゃんに酸素を送る命綱である臍帯(へその緒)が子宮口近辺まで下がってきたり、子宮口から腟内へ脱出した場合赤ちゃんに酸素が送られにくくなり、急速に赤ちゃんが危険な状態に陥る可能性があるので適応となります。
分娩停止、遷延分娩
分娩停止とは、陣痛開始後、十分な陣痛が来ているのにもかかわらず、2時間以上にわたって分娩の進行が見られない場合で、回旋異常や児頭骨盤不均衡(CPD)などが原因となります。
まったく分娩が進まず、吸引分娩や鉗子分娩のできない状況では、帝切が選択されます。一方、初産婦で30時間以上、経産婦で15時間以上お産が長引いた状態を遷延分娩といいます。
遷延分娩では母体疲労に加えて、胎児機能不全に陥るリスクも高くなるので、状況に応じて緊急帝王切開が選択されます。
常位胎盤早期剥離
胎盤が常位にあるとは、前置胎盤や低置胎盤に対する言葉で、胎盤が子宮口付近でなく、通常の位置にあるということです。
その胎盤は、通常、赤ちゃんが産まれた後に子宮から剥がれますがが、赤ちゃんがまだ胎内にいるときに剥がれ始めることがあり、常位胎盤早期剥離といいます。
子宮内での大量出血により、母体も危険な状態に陥る可能性がありますので、緊急帝王切開となります。
回旋異常
赤ちゃんは産道をまっすぐに下りてくるのではなく、頭を先頭として回転しながら下りてきます。
しかし赤ちゃんが上手に回転できないときは出産が長引き母子の健康を損ないます。
胎児の状態により緊急帝王切開を実施することがあります。
一般的な帝王切開の手術の流れ
手術前は飲食制限、手術部の体毛を剃る(お腹や陰部。看護師さんがやってくれる)下剤や浣腸、点滴、尿管、産道の状態の確認(逆子が直っているかなどの確認)、赤ちゃんの心音聴取などが行われます。
※医療機関によって異なる場合があります。
手術開始後の一般的な流れは、麻酔→切開→胎児娩出→処置→縫合となります。
麻酔
帝王切開で使われる麻酔には2種類あります。
脊髄くも膜下麻酔
脊椎麻酔とも呼ばれる麻酔で、腰から背骨に針を指して脊髄くも膜下というところに麻酔薬を注射します。
即効性があるのが特徴で、注射してから5分ほどで下半身の痛みや温度の感覚がなくなります。
硬膜外麻酔
背中から細いチューブを入れて、硬膜外腔というところに麻酔薬を注入します。
硬膜外麻酔のメリットは、チューブから麻酔薬を追加できるので麻酔切れの心配がないことです。(麻酔が効くまでに10~15分ほど時間がかかります。)
一般的に、脊椎麻酔は手術中の痛み止めに、硬膜外麻酔は術後の痛み止めに使われることが多いようです。
切開
陰毛ギリギリを横に切る方法
一般的に行われる切開法です。皮膚から筋膜までを横に切ります。
その下の腹膜は縦に切、子宮壁は再び横切りに。
縦に比べて時間がかかるのでトラブルの可能性の低い予定帝王切開の分娩の場合に選択されます。
臍の下を縦に切る方法
臍の下から恥骨に向かって切ります。皮膚から筋膜まで縦に切りますが、子宮壁は横に切ります。
手術時間が短く赤ちゃんを早く安全に取り出せるため緊急時にはこちらになる場合が多いです。
※どちらになるかは、緊急度の高さや医師の考え方、妊婦さんの希望によって変わります。
処置
赤ちゃんを子宮外へ出し、臍帯(へその緒)をハサミで切断します。
その後、胎盤を娩出します。
縫合
子宮内をきれいにしたあと切開した子宮の筋層と腹壁を縫合します。
通常、子宮の縫合には溶ける糸(吸収糸)を使い、皮膚の縫合には糸を使うか、「ホチキス」のような医療用ステープラーが使用されます。
- 平均入院日数は自然分娩で5~6日(問題なければ3日で退院のところも)
- 帝王切開で8~10日
手術後の痛みなど
- 手術後の痛みには個人差がありますが、3~4日痛みが強いときには座薬や痛み止めを処方される場合があります。
すたすたと歩くことはできず寝返りや咳をする時などは痛みますが、だいたい4~5日で育児も普通にできるようになります。
帝王切開分娩でも自然分娩と同じように産後独特の出血(悪露)やお腹の痛み(後陣痛)はあります。
「悪露」とは出産後、生理のように子宮から排出される妊娠中に赤ちゃんを守ってくれた様々なものの分泌物です。
正常に子宮が回復していくと、この悪露は色味が薄くなり出血量も減っていきます。 - 1ヵ月検診で異常がなければ近いうちに性交渉も大丈夫になります。
ただし帝王切開で出産後、次回の妊娠は最低でも半年間(6ヶ月)は空けておきましょう。
これは帝王切開で子宮を切っているため、切った部分の組織が弱くなっているからです。
帝王切開に限らず、開腹手術をした時に、切開した部分と他の臓器が癒着する可能性があります。
これは、手術のために切開した部分の傷を治す過程で、組織が傷ではない部分を巻き込んでしまうことが原因でおこります。
現代の医学では、帝王切開後の臓器癒着を、確実に予防する方法は確立されていません。
ですが近年は、癒着防止フィルムが開発されたこともあり、子宮や腹部の傷と他の臓器や組織が触れないようにすることで、癒着の予防に効果を発揮しているといいます。帝王切開後の臓器癒着を避けるためには、意識的に身体を動かすのが一番です。
また、お腹の傷跡は3ヶ月程度で赤みが取れます。1年経てば目立たなくなりますが、体質によっては傷跡が残ることがあります。
他国の帝王切開事情
タイの帝王切開事情
タイでは、仏教への信抑心から生まれた日の「曜日」をとても大切にしています。
ほとんどの人が自分の誕生曜日を知っています。
寺院には各曜日に対応する仏像があり、自分の誕生曜日の仏様に手を合わせる人が多いのです。
縁起の良い日に出産することをとても重視しており、占い師を雇って出産日を決めて、その日を帝王切開日にする人もいるほどです。
縁起の悪い数字とされる6が付く日の出産は少なく、縁起の良い日や国王のお誕生日の出産を希望する人が多いのです。
縁起や信抑を重視する考え方がある一方で、タイは性転換手術の聖地として注目されて久しく、それ以外にも日本では難しい卵子提供や代理母、男女産み分けなど治療に対する規制が緩いのが現状になっていて日本とはだいぶ違います。
(男女産み分け:体外受精させた受精卵を子宮に戻す前に調べる「着床前診断」で性別を判定、希望する性の受精卵を戻すことで医療技術的には、男女産み分けが可能となります。
日本では「命の選別にあたる」とする倫理的な理由から、原則的に認められていません。
タイでも医師会の指針では認められていませんが、罰則がなく小規模な医療施設で行なわれています。
アメリカでも可能ですが、費用面で安くすむタイを利用する日本人夫婦は年間100組以上に上るといわれています。
ブラジルの帝王切開事情
ブラジルでは現在、帝王切開による分娩が全出産の半数以上を占めており、これは世界で最も高い割合だと言われています。
痛みを不安に思ったり、経膣分娩によって産道を傷つけることを避ける(男性を受け入れるために女性としての機能を守る)ために帝王切開による出産を選択する女性が多いといいます。
より高額な医療費を得たいと思われる医師らのアドバイスに従ったりすることで、計画的な帝王切開での出産を選択する女性がますます増加しています。
同国では、新生児2億200万人の平均56%の分娩に帝王切開術が使用されており、民間の産院ではこの数字が85%にまで急増するといいます。
同国政府は、この風潮に歯止めをかける目的で医師らに対する規制を強化し、医学上の必要性が認められる場合でない限り、妊婦らを説得して帝王切開術を受けないようにさせることを求める新たな取り組みを開始しました。
アメリカの帝王切開事情
アメリカの病院では無痛分娩が大半で、帝王切開率も高くなっています。
有名人や都市部に住む女性は、帝王切開を選ぶのがステータスになっているといわており、それを一般人が取り入れる傾向がここ数年の間続いています。
計画的に出産日を決められるし、帝王切開後の傷跡は整形手術によってほとんど分からないようにすることが可能です。
また病院によっては、直後に腹を引っ込める整形手術をオプションとして設けているところもあります。
大きな病院では、80~90%の女性が麻酔薬を用いた「無痛分娩」で出産しています。
多くの病院では、産婦人科医が自然分娩にかかわったことがなく、助産師さんがいません。
そのため医薬品を使わない出産は、病院で難しいシステムになっているといわれています。