出産(分娩)は、安全安心であることが一番大切です。
自然分娩を希望しても、例えば逆子の場合などでは、帝王切開を選択しなければなりません。
実は、海外ではあえて帝王切開を選択して出産が行われている国もあり、出産に対する考え方は各国で違います。
そこで、各国のお産事情についてまとめてみました。
お産(分娩)の実情
日本において1950年頃には、1年間に230万件以上の出産(お産・分娩)がありました。
この数値は、今現在の倍以上の件数です。
当時は、病院・診療所・助産所での出産(お産・分娩)は5%に過ぎず、95%以上の赤ちゃんは、自宅でお産婆さんと呼ばれていた助産師の介助の下でお産が行われていました。
1975年頃になると、病院・診療所での出産(お産・分娩)は約92%、助産所での出産(お産・分娩)は約7%となり、自宅での出産(お産・分娩)は、わずか1%ほどに減少しました。
そして、現在では、病院・診療所での出産(お産・分娩)が約99%となり、助産所ですら1%未満、自宅でのお産は極めて少数になりました。
どこでお産(分娩)しますか?
検診を受けている病院と、出産する病院は違う、という妊婦さんがよくいらっしゃいます。
「検診を受けて慣れている病院で出産もしたい」と願う妊婦さんは多いと思いますが、近年の日本ではそれがかなわないことがあります。
出産できる病院が減ってきているのです。
お産(分娩)を実施施設
厚生労働省発表のデータによると、平成29(2017)年9月中に「分娩(正常分娩を含む)」を実施した施設の数を見てみると、この10数年の間に、年々減少しています。
細かく数字を見てみると、分娩を行った病院は、平成17(2005)年では1,321施設あったのに、平成29(2017)年では995施設となり、約25%減少しています。
診療所については、平成17(2005)年では1,612あったのに、平成29(2017)年では1,144施設となり、約30%減少しています。
ちなみに、病院と診療所の違いは、簡単に言うと病床数の違いで、病院は病床数が20床以上、診療所は病床数が19床以下の施設です。
分娩件数を年次推移でみると減少傾向で、いわゆる少子化が起きています。
しかし、帝王切開娩出術件数の分娩に占める割合は、増加傾向にあるのです。
平成2(1990)年では、全分娩の10%であった帝王切開は、平成29 (2017) 年には、なんと20.4%と増加しています。
診療所より、病院の方が帝王切開率が高いのは、診療所では安全に分娩できない妊婦が病院に紹介されるケースや、特に新生児の集中治療室がある病院では、帝王切開率が高い傾向にあるためです。
帝王切開率が高い/低いという数字だけでは、その病院・診療所の善し/悪しを評価することはできません。
海外での帝王切開の実施状況
日本での帝王切開率が20%となっていますが、海外ではどのような状況なのか、調べてみると、
- アメリカでは1988年に帝王切開率が25%に達しました。
- ギリシャでは、30%前後。
- 韓国では40%前後。
- ブラジルは50%前後で、世界で最も高いと言われています。
- ブラジルの都市部においては、なんと80%前後となっています。ブラジルの都市部には、100%帝王切開する施設がいくつもあるようです。
- 逆に、スウェーデン、デンマーク、オランダでは、帝王切開率は10%程度となっています。
帝王切開が、単純に多い、低いで医療水準等を評価することはできず、分娩に対する各国の考え方の違い、お国柄のあらわれだと思います。
ちなみに、帝王切開率が高ければ、周産期死亡率が必ずしもゼロに近くなるわけではありません。
帝王切開率が高く、周産期死亡率が比較的高い国もあれば、帝王切開率が低くても、周産期死亡率が低い国もあります。
お産はお母さんと赤ちゃんの安全が第一
分娩に関して、一番大事なことは、お母さんと赤ちゃんが元気であることです。
お母さんからみて
お母さんに関しては、妊産婦死亡率(母体死亡率)という数字があります。
医療が進んだ現在でも、毎年数十人の方がお産によってなくなっています。
妊産婦死亡率の主な原因は次のような原因です。
- 出血
- 脳出血
- 羊水塞栓 など
血液、心臓、肺に関係するトラブルがあげられています。
妊娠中毒症に起因することがあるので、体重増加に気を付け、妊婦健診をきちんと通うことが大切です。
万が一のことを考え、対応が可能な病院で、安心して出産を迎えたいですね。
赤ちゃんからみて
赤ちゃんに関しては、周産期死亡率という数字があります。
お腹の中にいる妊娠28週(妊娠8か月)から生まれて1週未満までの間に赤ちゃんが亡くなる確率をいいます。
大人に突然死があるように、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で突然亡くなってしまったり、元気に生まれてきても、大きな病気などが原因で、生まれたその日のうちに亡くなってしまったり、生まれてしばらくは元気だったけれど、感染症を発症して生後数日で亡くなってしまうなど、いろいろなことがあります。
日本におけるこの周産期死亡率の割合は約270人に1人です。これは世界でもトップで、ここ20年近くはほぼトップクラスを保っています。
しかし今から50年ほど前は10倍以上の死亡率があり、約20数人に1人の割合で赤ちゃんが亡くなっていました。
近年の新生児医療の進歩によるところが大きいのでしょう。
妊娠・出産における妊産婦死亡率、周産期死亡率の劇的な改善は、ひとえに医療の進歩によるものです。
医療の介入は、安全な分娩によって、お母さんと赤ちゃんの大切な命を守ってくれているのです。
何事も100%ということはありませんが、少しでも安全に安心して出産(分娩)を迎えたいものです。
日本では、自然分娩が正統派であって、帝王切開は病的なイメージがあるかもしれません。
選択肢が帝王切開しかなく、帝王切開をせざるを得ないケースもありますが、帝王切開をすることで安全安心な出産をすることが出来ます。
自然分娩を始めたものの分娩の途中で危険が迫り、急遽帝王切開に切り替えて出産をするケースもあります。
帝王切開が可能な医療施設で自然分娩をはじめ、途中で帝王切開に切り替えられれば、事なきを得ますが、もし帝王切開ができない医療施設で自然分娩をはじめていたら、大変なことがおきるかもしれません。
妊娠中少しでも健康状態が良くないことがあれば、イザの時を見据えて分娩施設を検討する必要があるかもしれません。
また、前述のブラジルのように、吉日に出産をしたいがために、帝王切開をあえて選択する習慣や文化がある国もあります。
自然分娩にこだわる必要はなく、何よりも優先すべきば、安全安心な出産(分娩)なのです。
幸いにして、日本には高度な医療が受けられる環境があります。
安全安心な環境下で、出産(分娩)を迎えることができる日本人は、とても恵まれていると言えるかもしれません。