逆子でお困りの妊婦さんの多くは、お灸に興味を持っているのではないでしょうか。

昔から逆子にはお灸が効果的と言われていて、実際逆子のお灸を行っている専門の鍼灸院もあれば、セルフケアとして自分自身でお灸をやっている妊婦さんもおられます。逆子のお灸はなぜ効果があるのでしょうか。

なぜお灸が逆子に効くのでしょうか。
このページではその根拠ややり方などを解説していきます。

お灸

逆子とは、お腹の中の胎児が頭を下(頭位)にしておらず、お尻や足が下にしている姿勢(骨盤位)になっていることをいいます。

胎児はお腹の中で常にくるくる動いていますが、胎児の身体の中で一番重たい部分が頭なので、重力の影響もあり、週数が進むにつれて徐々に自然と頭位へと変わっていきます。

しかし、逆子のまま出産を迎えることもあり、逆子のまま普通分娩(経腟分娩)を行うと母子ともにリスクがあるため、多くの場合は帝王切開が選択されます。

逆子の多くは自然に直る可能性があるので、逆子だと分かった時点で早めにお灸や体操などの対策を講じることで改善が見込まれます。赤ちゃんの健康と安全を考えて、逆子について理解を深めることが大切です。

逆子の原因

逆子の多くは原因不明です。ただ要因として考えられるものは多岐にわたります。母体側の要因、胎児・子宮環境側の要因の両面が考えられます。

母体側の要因

  • 子宮内の形状:子宮奇形、子宮内ポリープ、子宮筋腫などがあると、胎児の動きを制限する。
  • 狭骨盤・骨盤の歪み:骨盤が狭かったり、歪んでいると胎児が頭を下に向けるスペースが不足する。
  • ストレス・冷え・血流不足:子宮が緊張して胎児の動きを制限する。

胎児、子宮環境側の要因

  • 羊水の量の異常:羊水過多、羊水過少により、胎児の向きが定まらない。
  • 多胎児:双子や三つ子などだと、子宮内のスペースが限られる。
  • 低置胎盤や前置胎盤:胎盤の位置が通常と異なる場合。
  • 胎児の形態異常:発達遅延や水頭症などの形態異常があると、頭を下にしにくい。
  • 臍帯(へその緒)の長さ:長すぎても短すぎても胎児の動きが制限される。

これらの要因が重なることで逆子になる確率が高まると思われます。なお、母体が動き過ぎると逆子になる、という話がありますが、医学的な根拠はありません。運動不足も運動のし過ぎもよくありません。ほどほどに。

形態的な問題を治すことは難しいですが、母体側の要因としての、ストレス・冷え・血流不足を解消するように、生活習慣の見直し、鍼灸治療のケアを正しく受けることで逆子の予防や、改善ができる可能性があります。

逆子になる頻度とタイミング

逆子になる頻度は、妊娠週数によって異なります。逆子の確率について以下のようなデータがあります。

  • 妊娠中期(28週頃まで):約3050%
  • 妊娠30週頃:約1530%
  • 妊娠32週頃:約7%程度
  • 妊娠36週以降:約35%

逆子になるタイミングは特に妊婦さん自身に自覚はないようです。
中には、いつもより胎動が強く感じられ、胎児がぐるっと回ったような感覚を持たれる方もおられますが、多くの場合、検診で逆子と言われて初めて気づきます。

逆子の状態は、出産の時期が近づくにつれて自然に改善されていくことが多いのですが、一部の妊婦さんには逆子が続く場合があります。

逆子のまま自然分娩に臨むことはリスクがあるため、帝王切開が行われます。33週の妊婦検診の際に逆子であると、38週に帝王切開手術による出産が予定されてしまいます。帝王切開が決まってしまうと、多くの妊婦さんはかなりショックを感じ、焦ってストレスとなってしまいます。

33週からあわてて逆子ケアをはじめても、時期的に直りにくい時期に入ってしまっているので、逆子だと診断を受けたら、33週の妊婦検診までに逆子を直すように早めに計画をたてておくと安心して過ごせます。

逆子に対するお灸の効果

逆子に対するお灸の効果は、多岐にわたります。

まず、お灸は身体を温める作用があり、冷え性や血行不良の改善に役立ちます。妊娠中の女性は特に冷え対策が重要です。子宮は筋肉でできており、身体が温まることで血行が良くなり、子宮内部が柔らかくなって、胎児が動きやすい環境を作ります。

また、お灸にはリラックス効果もあります。ストレスが多い妊娠期間において、心身のリラックスは非常に大切です。お灸を通じて精神を落ち着かせることで、胎児が逆子から正しい位置へと戻る手助けになります。

さらに、特定のツボを刺激することにより、内臓機能も整わるため、妊婦さんの体調全般に良い影響を与えます。逆子にお悩みの方は、ぜひお灸の効果を試してみてはいかがでしょうか。

逆子の灸で逆子が治るメカニズム

逆子のお灸が治る理由は、足のツボ(特に至陰(しいん))への温熱刺激が子宮の血流を改善し、子宮の筋肉の緊張を和らげることで、子宮内の環境が胎児にとって動きやすい状態になるためと考えられています。

子宮は平滑筋という筋肉でできているので、血液の流れの良し悪しによって子宮の筋肉が硬くなったり柔らかくなったり変化します。これは、肩こりの時に首肩の筋肉が硬い状態が、鍼や灸で血行が良くなり、筋肉が柔らかくなってこりが解消するのと同じ原理だと言えます。ただし、肩こりの時は硬くなっている筋肉を直接鍼や灸で刺激しますが、逆子の場合はお腹への刺激はせず、足のツボを使うところが大きな違いです。

直接お腹に刺激しなくても効果があるのは、「体性―自律神経反射」と言われる科学的なメカニズムによるものと考えられています。ツボへのお灸の温熱刺激が自律神経の副交感神経を刺激し、子宮の血流量を増加させるのです。実際、お灸によって子宮動脈の血管抵抗指数(RI)が低下して流れが良くなったというデータがあります。この機序により子宮筋の緊張が緩和され、胎児にとって動きやすい環境となります。

また、副交感神経が刺激されることでリラックス効果とホルモン分泌が促進されます。リラックス効果により筋肉の緊張緩和と血流改善が起こり、胎児にとって動きやすい環境となります。逆子とホルモン分泌の直接的な医学的因果関係は、明確にはされていませんが、ホルモンによって子宮や骨盤の状態に影響を与えることがあるので、ホルモン状態が改善されることで逆子が直りやすい環境となる可能性があります。

これらのことが総合的に作用して逆子のお灸は逆子改善に効果が期待されます。

具体的な施術例と結果

具体的な施術例はたくさんあります。

28週で来院された妊婦さんの例

24週頃から逆子と診断されていたとのこと。お腹の状態や体調を確認した後、鍼灸で全身調整を行い、特定のツボにお灸を施しました。はじめは緊張された様子がありましたが、施術後、リラックスした様子が見受けられ、身体が温かくなって軽くなったと喜ばれました。3回の施術の後、妊婦検診で逆子が直ったとの報告をいただきました。

33週で来院された妊婦さんの例

帝王切開の日程が決められてしまい、どうしてよいか途方に暮れてしまったと泣きそうになって来院されました。お腹の状態や体調を確認した後、鍼灸で全身調整を行い、特定のツボにお灸を施しました。施術後、足腰お腹が温かくなった、足のむくみが和らいだと、気分も落ち着いた様子となりました。お灸は体だけでなく、ストレス緩和にも良い影響を与えるため、妊婦さんの不安を和らげる助けにもなります。5回の施術の後、妊婦検診で逆子が直ったとの報告をいただきました。

このように、具体的な施術を通して逆子が改善したケースが増えているため、ぜひご検討いただきたいと思います。

逆子の灸のおすすめのツボとお灸の方法

逆子のお灸として有名なツボは、「至陰(しいん)」と「三陰交(さんいんこう)」です。どちらかというと「至陰」は中国式、「三陰交」は日本式ということができるかもしれません。どちらも逆子に対してよく使われるツボです。「至陰」は小指の先にあり、「三陰交」は足首の内側にあるツボです。

これらのツボにお灸をすることで、冷えの改善やリラックス効果が期待できるため、逆子の改善にもつながるだと思います。

お灸の方法は、中国では棒灸が使われ、日本では透熱灸という直接灸が使われます。セルフケアでは簡易式のお灸が使われます。1回ではなかなか改善には至れません。継続して行うことで、より効果が期待できるので、ぜひ頑張ってケアしていきましょう。

逆子の灸で使うツボの紹介

ツボの詳細を紹介いたします。

「至陰」は、「足の太陽膀胱経」という経絡に所属し、足の小趾の外側爪甲根部(爪の生え際の角)にあるツボです。身体の末梢を刺激することで全身の血流が改善され、冷え解消や、自律神経調整に有名なツボです。

また、膀胱経の最後のツボで、生殖機能に関わる経絡である「足の少陰腎経」という次の経絡に接続するツボです。右腎は命門の火であり、生命活動の根源と考えられています。この命門の火の働きが低下すると、妊娠中であれば、妊娠維持や出産に必要な力が低下し、流産や逆子などが起こりやすいと考えられています。
至陰を刺激することで、子宮や生殖機能の働きを高めることが期待できます。

「三陰交」は、「足の太陰脾経」という経絡に所属し、内くるぶしの骨の一番高いところから指4本上の高さで、脛の骨の後縁にあります。このツボは「足の少陰腎経」と「足の厥陰肝経」という経絡とが交差するツボでもあり、それぞれに効果が発揮されるとても重要なツボです。腎経は生殖機能に関係があり、肝経の経絡が生殖器を通るという特徴があります。ですから、婦人科全般に不調に広く効果が期待できるツボであり、妊婦さんの身体全体の調和を助ける役割があります。
三陰交を刺激することで、下半身や子宮の血流を高め、冷えの改善に寄与します。

お灸の手順と注意点

お灸の種類によってお灸のすえ方は違いますが、一般の方がホームケアでやりやすい簡易式のお灸である台座灸のすえ方についてご紹介します。

  • 準備するもの:簡易式のお灸(台座灸)、ライター、灰皿、消毒綿、ペン、
  1. お灸を据えるツボ周辺を消毒します。
  2. ツボの位置を確認し、目印としてツボの位置にペン(蛍光ペンなど後で拭きとれるものが便利)を使って印をつけます。
  3. 簡易式のお灸を準備をします。お灸の剥離紙をはがし、指先に仮りに貼ります。
  4. ライターで指先に貼ったお灸に火をつけます。
  5. 炎が消え、煙だけが立ち上っている状態になったお灸を火傷しないように横から親指と人差し指で持ち、ペンで印をつけたツボに貼りなおします。
  6. 徐々に温かくなっていきます。ご自身の感覚で温かい~少し熱いというレベルになったら、無理をせずに剥がし取ります。剥がしたお灸は灰皿に入れて、床など回りが焦げないように気を付けましょう。
  7. お灸が全て終わったら、お部屋の換気をしてください。

妊娠中は肌が敏感になっていることもあるので、火傷に注意をし、決して無理をせずに行ってください。もし1壮(そう、1個のこと)では物足りなさがあれば、連続して同じところに2壮目のお灸をすえてください。

お灸は強めの刺激で行うと、皮膚表面だけが熱いような状態になりがちです。これは少し刺激過多で、「三陰交」のお灸の場合、火傷して水泡ができるかもしれません。それよりも、弱めの刺激で何壮か連続してお灸をしていくと、深部にまで到達するような刺激を感じられるようになります。このような刺激があるお灸が、お灸本来の効果を発揮すると言われています。

はじめはそのような感覚はわからないかもしれませんが、少しずつ感じ取っていただけるようになると思います。お灸に慣れてきたら温熱刺激の中にも違いがあることを感じ取ってみてください。

いずれにしても火傷には十分注意して、リラックスして行ってください。万が一火傷をしてしまった場合、化膿しないように注意してください。なお、火傷が直るまでお灸はお休みしてください。

自宅でできるセルフケアのお灸

自宅でできるセルフケアのお灸は、逆子治療に効果的な手段として多くの妊婦さんに支持されています。まず、お灸用の材料を用意しましょう。ドラッグストアや通販で購入できます。

お灸はいろいろなメーカーからさまざまな種類の商品が発売されていますが、一般の方が自宅でセルフケアとして行いやすく、一番購入しやすい商品は、セネファ株式会社の「せんねん灸」というシリーズの台座灸だと思います。

台座灸とは、直接皮膚に火があたらないように、中央に穴が開いている厚紙でできた台座と、その上に円柱状にモグサが詰め込まれている構造で、お灸の温熱刺激をコントロールしている商品です。同じ台座灸でも温熱刺激が弱~強までさまざまな商品があります。

はじめは温熱刺激が弱のタイプから試してみて、ご自身に調度良い温熱刺激の商品を見つけていただければと思います。もし弱のタイプで熱感が足らない場合には、同じツボに何回も繰り返しお灸を据えると、徐々に調度よい刺激量となってくると思います。数で刺激量を調整していただくようにすると、火傷をしないで安全にお灸ができると思います。

お灸で必要な道具は、お灸(台座灸)、ツボの位置に印をつけるための水性ペン、灰皿、もしあれば、床などに敷くタオルなど(万が一お灸を転がしてしまった時、床を焦がさないですみます)です。そして、素足になっても寒くないお部屋環境でお灸を行っていきましょう。

また、もし足腰が冷えている場合、いきなりお灸をしても、なかなか熱感を感じにくいものなので、事前に足腰が温まっている状態であることが望ましいと思います。もし冷えている場合は、足の指を1本ずつ回したり、足首回しをしたりして、少し軽い運動をしてみたり、足浴をしたりすることをおすすめします。それらが面倒くさい場合は、「ドライヤー」を使って足腰を温めると簡単に温められますよ!

身体が温まるとリラックスした状態になりますので、その状態でお灸をしていただくと、より効果的です。好きな音楽などを聴きながら、ゆっくり呼吸をしながらお灸を行っていきましょう。

お灸は、毎日3回行うことで効果を実感できるかもしれません。お灸が終わったら、少し横になって休んでください。

お灸の副作用とリスク

お灸は非常に安全性の高い療法ですが、副作用やリスクについても理解しておくことが大切です。一般的に、お灸による副作用はほとんどありませんが、肌質や温熱刺激が強過ぎた場合、火傷をして水泡ができることがあります。

稀なことですが、皮膚に赤みやかゆみが生じる場合があります。この症状は肌が敏感な方やアレルギー体質の方がなってしまう場合と、血行が良くなったために起きる反応です。
また、特にはじめてお灸を受けた時など、お灸の刺激に慣れていない場合や、刺激が多過ぎると「灸あたり」といって、体がだるい、疲労感、めまい、吐き気、寒気などの症状が数時間~数十時間続き、その後急速に症状が改善する現象が起きることがあります。これは血液循環が良くなり、体の調子が整おうとしているサインです。妊娠中という特別な時期なので、初回は少し物足りないくらいの刺激量からはじめて、少しずつ身体を慣らせていくと予防ができます。自分に合った施術を受けることが重要です。

またセルフケアでお灸を行う場合は、信頼できる鍼灸師に相談し、正しいお灸のやり方や刺激量などを指導してもらってからセルフケアのお灸を行ってみましょう。安全にお灸を楽しみながら逆子の改善を目指しましょう。

知っておくべきリスク

お灸治療には多くのメリットがありますが、知っておくべきリスクも存在します。
まず、肌の状態が悪いと、火傷や炎症が起こる可能性があります。特に敏感肌の方は、施術前に状態をしっかりと確認してもらうことが大切です。

さらに、妊娠中の女性は、体の変化が激しいため、適切な施術の方法や位置を選ぶ必要があります。自己判断で行うのではなく、専門の鍼灸師と相談することをお勧めします。

また、お灸後に感じる疲労感や症状の変化に敏感になり、気になる場合はすぐに専門医に相談することも検討してください。リスクを理解し、安全にお灸治療を行うことで、安心して妊娠ライフを過ごすことができます。

よくある質問

逆子のお灸に関しての質問が多く寄せられます。

①逆子のお灸は、どのように行えばよいのでしょうか?

一般的には、専門の鍼灸師に施術してもらうことをおすすめしますが、セルフケアとして自宅で行うことも可能です。その場合は、火傷に注意して行ってください。

②お灸の効果が実感できるまでどのくらいかかるでしょうか?

個人差があるので一概には言えませんが、専門の鍼灸師の施術を受けた場合は、多くの方が数回で改善を実感されています。ただしセルフケアのお灸の場合、鍼灸師が行うお灸より刺激が弱いことが多いので、少し時間がかかるかもしれません。いずれにしても、継続的に行うことが大切です。

③お灸は熱いのでしょうか?

専門の鍼灸師が行うお灸は、少しピリッとした熱さがありますが、火傷はしません。これに対してセルフケアで行うお灸は温かい~少し熱い程度です。これは、鍼灸師が行うお灸は透熱灸という種類のお灸で、セルフケアで行うお灸は台座灸という種類のお灸であり、同じお灸ですが種類やタイプが違うので、刺激の感じ方が全く異なります。

まとめ

逆子に対するお灸の効果は、多くの妊婦さんに支持されています。
お灸の刺激が、体性自律神経反射という身体の反応を起こします。この反応で子宮の血流量が増加し、子宮の筋肉の緊張が緩和されることで、胎児が動きやすい環境が整い、逆子が直る可能性が高まります。

また、お灸にはリラックス効果が期待できるため、ストレスを感じやすい妊婦さんにとっては大変メリットがあります。逆子を気にするあまり緊張してしまうことがありますが、お灸はその緊張を和らげ、赤ちゃんが柔軟に動ける環境を整える手助けをします。

このように、お灸を取り入れることで、逆子治療の選択肢が広がりますので、ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。